2018年度(第31回)社会福祉士国家試験解説 第31問 最低賃金制度
問題31
日本の最低賃金制度に関する次の記述のうち,最も適切なものを1 つ選びなさい。
1 地域別最低賃金額は,特定最低賃金額を上回るものでなければならない。
2 地域別最低賃金額は,労働者の生計費を考慮せずに決定される。
3 地域別最低賃金額は,労使が行う賃金交渉によって決定される。
4 最低賃金の適用を受ける使用者は,労働者にその概要を周知しなければならない。
5 支払能力のない事業者は,地域別最低賃金の減額適用を受けることができる。引用元: 第31回(平成30年度)社会福祉士国家試験 試験問題
(注) 特定最低賃金とは,特定の産業について設定されている最低賃金をいう。
社会人の方 チャンス! 生活そのものを支援していくためには、産業分野の知識は必須。
最近の議論の中で、最低賃金を全国統一していく、なんていう話があるのをご存知でしょうか。最高の東京が985円、鹿児島が761円となっていますが、この賃金格差が東京への一極集中と、地方の過疎化を生んでいるということで、それを是正していこうという議論があります。このことからわかるように、最低賃金は、地域によって違う。具体的には、都道府県単位で異なるという点を覚えましょう。
ちなみに、県単位で違うということで、例えば愛知県と岐阜県を例にとりたいと思います。
都道府県 | 最低賃金 |
愛知県 | 898円 |
岐阜 | 825円 |
愛知県は、自動車産業を中心に、製造業が盛んです。したがって、その方面の求人も多く、賃金も高めに設定されており、それを反映されて最低賃金も高くなっています。
一方、岐阜県ですが、愛知県に隣接しています。名古屋・岐阜市間は電車で20分程度と、たいへん近いのですが、山間部を抱え、広い面積をもっています。最低賃金は県単位の設定となり、愛知と比較すると70円の開きがあります。
愛知県と岐阜県の県境に住んでいた場合、岐阜から愛知に越境することにより、賃金がグッと上がることがあります。なんだか理不尽な気がしますが、そういう制度だから仕方ないかな・・・・そのようなイメージをもって記憶すると、覚えやすいのではないでしょうか。
特定最低賃金は、特定の産業について適用される最低賃金 → 通常より高い
愛知県の場合、特定最低賃金で分かりやすいのは自動車(新車)小売業。921円です。つまり、車のディーラーで働く人は、921円を下回る時給だと違法ということです(例外あり)。愛知だから車屋は時給高い、とか覚えやすいですかね。原則、特定最低賃金は、通常の最低賃金より高く、高いほうで支払うと覚えましょう。
選択肢1は、まるっきり逆でして、特定最低賃金は、地域別最低賃金を上回らなくてはならないです。これは間違えやすいかも知れませんね。
地域別最低賃金の減額適用
地域別最低賃金は、産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に適用されます(パートタイマー、アルバイト、臨時、嘱託などの雇用形態や呼称の如何を問わず、すべての労働者に適用されます。)。
特定最低賃金は、特定地域内の特定の産業の基幹的労働者とその使用者に適用されます(18歳未満又は65歳以上の方、雇入れ後一定期間未満で技能習得中の方、その他当該産業に特有の軽易な業務に従事する方などには適用されません。)。
なお、一般の労働者より著しく労働能力が低いなどの場合に、最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭めるおそれなどがあるため、次の労働者については、使用者が都道府県労働局長の許可を受けることを条件として個別に最低賃金の減額の特例が認められています。
(1) 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い方
(2) 試の使用期間中の方
(3) 基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている方のうち厚生労働省令で定める方
(4) 軽易な業務に従事する方
(5) 断続的労働に従事する方なお、最低賃金の減額の特例許可を受けようとする使用者は、最低賃金の減額の特例許可申請書(所定様式)2通を作成し、所轄の労働基準監督署長を経由して都道府県労働局長に提出してください。
引用元:厚労省HP
地域別最低賃金は、原則すべての労働者に適用されます(正社員・パート、嘱託等の区別なし)。ただし、例外(適用除外)があります。それは下記の通り
- 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い方
- 試の使用期間中の方
- 基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている方のうち厚生労働省令で定める方
- 軽易な業務に従事する方
- 断続的労働に従事する方
個別の内容まで突っ込んで覚える必要はないと思いますが、1.障害者が対象となっている 2.適用を受けるには労働局長へ届け出が必要ということを押さえておけばよいかと思います。
選択肢5は誤りですが、ここで触れられている”支払能力のない事業者”は、 人員が確保できず、いわゆる”人出不足倒産”に陥るということも最近の事例として覚えておきたい観点です。
選択肢4は消去法で導き出す
2 地域別最低賃金額は,労働者の生計費を考慮せずに決定される。
3 地域別最低賃金額は,労使が行う賃金交渉によって決定される。
4 最低賃金の適用を受ける使用者は,労働者にその概要を周知しなければならない。 以
残った選択肢。2、3は明確に誤り。選択肢3ですが、地域別最低賃金は都道府県単位・すなわち公的機関が決定するものですから、労使間の問題である賃金交渉とは無関係ですね。
選択肢4は、正直文章の誤りでは・・・と思いました。でも消去法でこれしかないかな、という感じですかね。
次回から、”地域福祉の理論と方法”を解いていきます。事例問題なども出てきますので、引き続きよろしくお願いいたします。